大阪高等裁判所 昭和41年(ラ)4号 決定 1966年7月01日
抗告人 保田久男(仮名) 外一名
相手方 藤井義男(仮名) 外九名
主文
原審判を取消す。
本件を神戸家庭裁判所尼崎支部に差戻す。
理由
職権で本件記録を調査すると、相手方保田和子、同保田美子、同保田勇、同保田京子、同保田道子はいずれも未成年者であつて、右和子、美子、勇については相手方保田文子が、右京子、道子については相手方保田シズが、それぞれ親権者母として同人らを代理し、本件遺産分割の手続に関与していることを認めることができる。しかしながら相手方文子、同シズはいずれも本件相続の相続人の一人であつて、前記未成年者らと共同相続人の関係にあり、利益相反する立場にあるものといわなければならない。そうすると、右未成年者らについては、特別代理人によつて同人らを代理させた上、遺産分割の手続に関与させなければならないのにかかわらず、その方法をとらなかつた原審判はこの点において違法である。そして以上説示したところによれば、本件は原審をして右の点を是正せしめた上、さらに審理せしめるのが相当であること家事審判規則一九条一項の規定の趣旨に照らし明らかであるから、原審判を取消し、本件を原裁判所に差戻すこととする。
なお附言するに、原審判は、分割すべき相続財産の総額を金三、二〇七万九三八円と評価したのであるが、そのうち原審判別紙第三目録記載の金員合計四八九万八、一六三円は、被告人久男、相手方文子および同陽一が、それぞれ相続財産である土地建物の一部を管理し、その賃借人から受領した賃料の総合計であるというのである。ところで本件記録によると、同人らが右土地建物を管理するについては、固定資産税、借地料、電気料金、水道料金、火災保険料および下水道使用料等の費用を支出していることを認めることができる。右のような費用は相続財産の管理に必要な費用であり、相続財産に関する費用として相続財産から支弁すべきものであるから、分割すべき相続財産およびその収益の額を算定するに当つては、当然右のような管理の費用を控除しなければならないものと解する。そして原審判説示の如く、管理費用等の支払関係が長期にわたる複雑微妙なものであり、関係者のその点に関する立証の熱意も乏しいからといつて、別異の取扱いをなすべきでなく可能なかぎり調査し、管理費用を算定しなければならない。
よつて主文のとおり決定する。
(裁判長判事 金田宇佐夫 判事 中島一郎 判事 阪井朗)